物から雰囲気まで

羽生市のデザイン、アートラボとして設立した〈羽〉HNAE。今回はWebページの立ち上げの企画「ひと」の第一回目の取材記事ということもあり、試験的にメンバーの一人である鈴木れあ璃さんにお話をうかがった。

鈴木さんは羽生市出身。武蔵野美術大学の工芸工業デザイン科・金工を卒業後、ワーキングホリデーでロンドンへ渡英。帰国後ご家族で着想し、親類の施工によってカフェ&ギャラリー〈Atelier Orenge Bell〉を12月、ご自宅のすぐそばにオープンし、自身で制作したジュエリーを店頭で販売していてる。もの作りは好きだが今後なにをメインに作っていくかは模索中で、デザイナーや作家という言葉も、実はしっくりこないそう。そんな心境を大切に今回は取材をした。

自分だけの秘密基地

<外の作品を見ながら>
-これが大学時代の作品ですね。-

鈴木さん「空間デザインが好きで、中に入って落ち着く場所、自分だけの秘密基地。みたいな、そんなコンセプトで作りました。直径2、3センチの鉄の棒を叩いて、木の枝みたいな表情を出してるんだけど、(当時の)先生に言われたのは、〈別に鉄じゃなくってよかったかもね〉って。確かにと思ってしまった、笑。これも、鏡が入っていて、映ると自分が異次元にいるように見える、みたいな。ファンタジーが好きで、そういう世界に入り込みたいという願望から作りました。これによって自分がおとぎ話の世界にいるような気分になれて。」

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鈴木さんが使用するデスクと道具の一部。

<アトリエ内>

鈴木さん「恥ずかしいな。白目むいてる写真とか載せないでください、笑。この机はお父さんが作ってくれて。超汚い私の机。掃除したのにな。あ、このワックス(ロウでできた固形の素材)から指輪とかの形を作って、業者に出して金属にしてもらうんだよ。早いと三日、四日でできるけど、ものによっては一週間くらいかかるかな。石膏で型を取って、そこに金属を流して、届いたら磨いてって。お店ができる前は家族三人で〈アトリエ〉一緒に作ってたけど、最近は全然時間がなくて、ばらばらに制作してる。」

ロンドン留学へ

<カフェ内>

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カフェのデザートセット

-イギリスでは紅茶文化を感じたりしましたか?-

s「これはフォートナム・アンド・メーソンっていうイギリスで有名な紅茶なんだよ。実は生粋のイギリス人の友達は、あんまりいないからわからないかも。でも確かに紅茶文化は栄えてるよ。」

ーさっき作品を見せてもらって、武蔵野美術大学のときは工芸でオブジェをつくったりしていて、それで大学を卒業してイギリスに留学したんだよね。それは専門のために行ったのですか?ー

鈴木さん「そうだなぁ、昔から海外には興味あって、どこの国に行こうかすごく迷った。オーストラリアやカナダについても調べたけれど、結局アートやファッション、カルチャーが栄えているイギリスへ行きたいと思った。大学の教授関連の工房もすごく興味があって、ウェールズの方にアーティストの修行で行くっていう話もあったんだけど、その当時は本当にやりたいことがわからなかった。だから、語学と文化を学ぶことが出来て、仕事もありそうな、都会のロンドンに行ったんだ。イギリスは特に街並が好きで、古いヨーロッパの雰囲気が好きなのかも。言葉では表せないけど、歴史から感じられる重厚感とか、世界観とか。さっきもそうだったけど、自分が異空間にいるような感覚が好きで、日本とは全然違うから、それをより体感できる場所に。今思うと、常に現実逃避をしたいのかなって。」

新鮮な現実へ

-鈴木さんは結局現実逃避はできましたか?-

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ロンドンの教会にて

鈴木さん「逆に現実と向き合ったかも、笑。海外で生活することは、やっぱり旅行とは全く違くて、何でもないことでも新鮮に感じられるし、リアルな文化を知ることが出来て、すごく楽しかった。だけど単身で行った手前、もちろん仕事をしないといけなかったし、物価が高いロンドンで外国人の私は、暮らして行くのがやっとだった。制作する材料を買う余裕も無く、理想通りにはいかなかった。制作や、アート系のインターンをしたり、異国の街で現実逃避したい、という思いがあったけど、逆に現実を突きつけられた。生きることの厳しさを知りながら、日本での恵まれている面も見えてきたと思う。そのおかげで、やっぱりものをつくりながら生きていきたいな。と再確認するこ
とが出来たんだよね。」

羽生での制作

―そのあと羽生に帰ってきたんですよね。―

鈴木さん「そう、ここもある意味、超田舎で現実逃避ができる場所で。」

―でも小さい頃からここに住んでいたりして、ここから飛び出したいと思って大学やイギリスに行ったのでは?―

鈴木さん「それもあったと思う。今でもある、笑。ここは最高の場所でもあるんだけど、でももっと他のところも見てみたい。無いものねだりですね。今では、この土地が制作に密接しているかは、はっきりとはわからないけど、潜在的には絶対あると思う。作品に影響していることはたしか。特にこの家の雰囲気は大切で、ここで育ったからああいうファンタジーなものができたんだと思う。」

―話を聞くとファンタジーの場所へ行く〈羽生からロンドンへ〉っていうのと、ファンタジーを自分の方に引き寄せる〈お店を作る〉っていう2つのアクションがあるよね。―

鈴木さん「どちらのアクションも体感したいというのがあって、周りを包み込むような、そこに入ったら包み込まれるような感じのファンタジー体験が好きで。ただ、ハッピーなものより、もっとディープなものがすきなのかもね。卒制のときはそうした雰囲気を出すために映像とか音楽を使いながら世界観をつくったんだ。

物から雰囲気まで

―いまは指輪っていう小さい形ですよね。―

鈴木さんが手掛けたジュエリー。

鈴木さんが手掛けたジュエリー。

鈴木さん「難しいけど、こういう小さいものにも雰囲気ってあるから、そこを作るのは好き。大学のときは細かい作業は苦手意識があって、せっかく機材と場所もあるのだからと言う思いで、他の人があまりやらない鍛造とか、大きいものを作ってた。
卒制を作ってる時は、溶接したり、グラインダーを使ったり、工場仕事みたいだった。でも最終的に作業の雰囲気からはなれて、ガーリーなものができたっていう。これの延長線上に、ジュエリーもあって。
いまは、ジュエリーも大好きだけど、需要があって作っている側面もある。これからもジュエリーを作り続けて極めたいけど、他の形でも作品をつくってきたいと思う。
模索中かな。あまり定まってない返事に感じになっちゃって、大丈夫かな。
ただこのお店は、少しずつ人が集まってるし、地域の交流の場所になってくれればと思う。
ものへの興味もあるけど、それだけじゃなくて。人への影響があるからこそ、ものづくりって面白くて。もっといろんな人が気軽にお店に来て、カフェのもつ非日常的な、ファンタジーな空間を楽しんで欲しいと思ってる。」

後記

今回は試験的にHANEメンバーである鈴木さんを取材しましたが最後の「ファンタジー」という言葉は驚きでした。日頃の生活圏である街に「ファンタジー」という飛躍した考えは抱きにくかったからです。ただこうした飛躍した発想が、街のひとつの魅力となるはずです。今後もお店が楽しみです。

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