古に遊び、自然を感受する「樋ノ上(ひのえ)カフェ」

民家の一画にひっそりと佇む風情あるカフェ「樋ノ上カフェ」。一歩足を踏み入れると、まるで旅先にいるような感覚になります。自然が身近に感じられた時代の味や匂い…失われつつある大切ななにかがそこにはありました。今回は、このカフェのオーナー今成さんにお話を伺いました。

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―今日は、よろしくお願いします!まず、最初のご質問ですが、カフェをつくるきっかけはなんだったのでしょうか。―

 

今成さん「きっかけは、後藤さんという方がきっかけですね。もともと建築をされていたんですけれど、阪神大震災のときに自分たちが作ったビルが壊れているのを目の当たりにして、〈子供たちに残せるものはなんだろう。〉って考えた人なんです。それで、子供たちに残せるものは〈農業、自然ではないか〉ということで仕事をお辞めになられて、1年くらい農業研修され、その後、羽生にあった屋敷を改装して農業を始めた方です。その後藤さんと、私と主人とお庭にいたときに、後藤さんが〈今成さん、ここを喫茶店にしませんか。〉と言われて。私は、そういうことをしたことがなかったので、ちょっと無理だと思います。といったら、あるものではなくて、〈今成さんが今成さんの良いようにやればいいんです。〉と言われて。自分もお料理嫌いではないし、お庭もきれいに維持できるのでいいかな、と。」

 

古を尊び、不自由を楽しむ

今成さん「ここには2棟、100年前に立てられた蔵があるんですけど、後藤さんを通じて大工さんを紹介してもらって、ここを直そうってことになりました。まずはちょっとずつ、自分のいい様にして直して、笑。トイレを外にしたり。こういうテーブルも後藤さんが協力してくれて…。この椿の木も50年経ってるんですって。こういう風に使うとオシャレなんですよって。大工さんも蔵専門の大工さんで、福島工務店さんなんですけど。本来、窓も、アルミサッシにすると、風も入ってこないし、気温もちょうどよく保てるかもしれないんだけど、私は、隙間風があるのが日本建築だと思っているので、そういうのを壊してしまうと、ここの蔵っぽさがなくなってしまうということで。こだわってここの環境づくりをしているんです。

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この机なんか、前の集会所で使っていったものを、処分するときに持ち帰ってください。と言われたときに持って帰ってきたものを使っています。私が、子供の頃、それこそお習字だとかを習っていたものなんです。釘を使っていない机で、年月が経っているので真っ黒だったものを再生して使っています。カフェを始めるだけではなくて、そういう昔のものを愛しんで、不自由なことを楽しむっていう環境づくりを作ったんです。もしかしたら、近代的なカフェが良い方には、古くて不自由で嫌だという方がいるかもしれないんですけど、50年、100年経ったものが身近に使われてるということがわからないと、古いものを愛おしく感じられないわけですね。私は、ここのうちの娘なんですけど、うちの母がこの家を建てるときというのは、近所に工場などがなく、農閑期の農家の方にお酒や夕飯などまかないを出して、家作りを手伝って頂いた時代なんです。それで祖母は自分が直接建てたわけではないですけど、そうやって手伝って頂いた方々のお世話をしたり、みんなで苦労して建てた蔵だと思って、祖母はずっと大切にしていました。自分が、みんなで共同で作った蔵と思うと愛おしい気持ちがあると思うんです。いろんな人がいろんな思いで建ててくれて、と思ったらもう少し残しておいてみんなと一緒にこの雰囲気を楽しもうかな、孫として思ったんです。

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こんな大きな梁が使われていて、一本の木をここまで持ち上げる。ということをイメージすると色んな物語が感じられるんですよね。それが楽しい!それをみなさんに伝えていくと、この蔵が喜ぶかな、という感じです。こういう壁にしても、板壁にしたんですけど珪藻土というのが入っているような、壁土を使っていて。こういう柱の曲がっているところに壁を塗るとすごい大変みたいで、壁屋さんに難しいよって言われてしまいました、笑。やはりこういう古いものを修復するということは、誰かが努力してくれないと、成り立たないんだなって勉強ししたのと、協力してもらえなければできなかったことなので大変、感謝しています。私にとってお料理はもちろんなんですけどこの環境を、ちょっと若い人たちに伝えたいという思いがあります。」

 

ありのままの自然を通して五感で感じる

今成さん「あと自分は、十年、二十年しか生きられないと思っていますが、その間にこの風情を楽しみたいと思ったんです。特別、何様のお屋敷というわけではないのですが、緑に囲まれ、ここにいられる幸せを自分は味わっていられれば、と。木を見ているだけでも、この葉っぱが全部落ちきるまで、落ち葉って落ちるんですね。いつまで落ちるんだろうって、笑。毎日、落とした分だけ楽しませてもらってる。そういう自然のありのままの環境を残しておくと、自然に生き物たちが集まってきて。命あるものって人間のことだけじゃなかったのね。って本当に思いますね。葉を落としながら、新芽を出して、未来の用意をしているわけです。やっぱり呼吸して、新陳代謝をしているのを見ると人間の意識をもって生きているのとは違うけれども、やはり生きてるって思いますよね。昔、よく先生〈植物も生きてるから〉っていって、当時はなんだそんなものって、笑。でもやっぱり、生きて生かされてることが伝わってきて、謙虚な気持ちになりますよね。除草剤を使わずにいると、ここがビオトープみたいになってきて、その割に、虫がばっと増えて、ということはないんです。柿など虫がついて葉の色が変わってきたら、ちょっと枝を切れば済んでしまう。こういう暮らしをしていると、人々も集まってくるし、小鳥も虫もほんとうに楽しませてくれるんですよね。ここは、私のものでなくて、ここに来て楽しんでくれる人のものでもあるので。ただ、言葉で添えないと理解できない、楽しめない部分もあるので、お子さんがくると、庭を案内して、植物の匂いを嗅がせてあげる。楠の木があるんですけど、なんの木だかわからない人もいっぱいいるんですけど、楠の木は樟脳。防虫剤のにおい。葉っぱがそういうにおいがするんですよね。みんなに嗅がせてあげるとキャーキャーいって喜ぶんです、笑。ほんとに遊べちゃうんですよね。みなさんにそんな気持ちをちょっとでもお伝えできたらって。そういうものを愛おしいと思える人は、人間も愛おしく思える。ただ人間って、実際に見て経験しないと、意識に上らないんですよね。人間って話して見て経験すると、いろんなものが見えてくるんですよね。子供たちにそういうことをしてあげたいなって。あたりまえなことでもそうなんだって確認作業をすると、見えてきますよね。」

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―みかん一つでも、本物よりも画像などで見る機会のほうが多いですよね。本物よりもそちらのほうがイメージされてしまいますもんね。―

今成さん「知識っていうは、絵でもわかるけど。みかん一個がどんな強さで木にくっついているのか。とってみないとわからないでしょ。だから、とってごらんって言ってもとらせてみると、「こんなに強くくっついているんだ!」ってなったりとか、笑。そういうことがすごく大事だなって。それが、みかん一個買うときも、そういうみかん農園からちぎられてきてるんだなってわかるんですよね。ひとつひとつが大事に思えてきますよね。私にとっては、食事そのものだけでなく、自然も味わって帰って欲しいんです。庭の身づくろいというか。庭もお客様を迎えられるようにしたいなっと。だから、環境が整わないとお店を開けないんです。」

―この蔵はできて何年でしょうか。―

今成さん「ここはできて百年ですね。大正、明治、昭和で。お店はをオープンしたのは8年前ですね。ちょうどイオンの進出でこの地区が変わり始めたときですね。ここで生まれたもので、自宅が大好きなのである意味出無精なんです、笑。」

 

季節の移ろいに任せた営業スタイル

―先ほど、環境が整わないとお店を開けないとおっしゃていましたが、オールシーズンではないんですか。―

今成さん「そうです。いつも春の芽吹き時、お彼岸頃から始めるとか、毎年決まってないんですよね、笑。夏が、7月の2週目頃までですかね。で、この蔵は、それこそ環境をいい温度に整えるのが難しいので、9月の初旬はまだ暑いので、9月後半、10月になってから12月くらいの間かなーと。庭も楽しめて、冷暖房をカンカンに入れなくていい環境です。最初は、冷暖房を入れないつもりだったんですけど、さすがに近頃の暑さに負けて、2階にもエアコンをつけました。」

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―実は、以前ハネのメンバーで来たことがあったんですけどその時は閉まっていて、笑。Webサイトで確認しました、笑。今日来れてよかったです。―

今成さん「今、娘がWEBサイトを作ってくれたのですが、最近は便利な時代ですよね。みんな、ここのお店がどんな店なのかわかっているので、料理も勝手に、色んな変なものを出してくるんだっていうのが最初からわかっているので、毎日決まったメニューもなくやっています。」

―とても美味しかったです!―

今成さん「パスタが良かった、パスタはないの?とか、うどんがよかったとか、笑。」

―羽生の人はうどんが好きですよね、笑―

今成さん「そうですね、笑。食事は、その人の人生観とつながっていると思っていて、やっぱり、食事を大事にする人は、自分を大事にしている方が多いですよね。自分を大事にしている方は、他人もある程度大事にできると思っていて。なんでもいいやと思っている方は、なんでもいいような生活を送ってるような気がしますね。」

 

食。子供の未来を作るお母さんたちに向けて

―食べ物も丁寧に頂かないとという気持ちになりました。手の込んだ料理で。―

今成さん「ありがとう。みなさんのお母さんたちもそうだったと思うけれど、家族に食べさせるものはいい物を食べさせてあげたいって思うでしょう。主婦って言うのは、家族の健康をになっていると思うんですよ。子供の未来を作っていくのはお母さんたちの食生活なので、そういうのも含めて、ここにくるお母さんたちに、なにもつけなくても野菜とかっていうのは美味しいんですよって。味も濃くなくても、っていうのをついでにお知らせしたいと。」

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―すごい伝わりましたよ。僕らの世代でもすごくよくわかるメッセージ性がありました。―

今成さん「押しつけなんだけど、笑」

―いえいえ!笑とてもおしかったです。―

今成さん「もしかしたら、今の若い子のほうが、飽食の時代を生きてきたから、ダイエットなど体のことを意識してるかもしれませんね。」

―料理のコンセプトはそういうものを伝えたいというところから発案されたものですか?―

今成さん「そうですね。自然。人間も自然の一種だから、この自然をそのまま守れるような味。夏なんか、毎回ナスをお出ししたりするんですが、笑。でも自分たちが食べ続けられるので、私と新井さん(カフェを切り盛りする従業員の方)で、〈あー美味しいね!〉って自画自賛しながら、食べてるんです笑。お客さんはどう思っているのかわからないですけど。」

 

究極のおままごととして

―カフェではご苦労もあるかとおもうんですけど。―

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今成さん「苦労ですか。苦労は、メニューが決まってないのが一番の苦労ですかね。毎日決まってないので。だから材料は、旬のものを使っているんですけど。今日のお天気は、お客さんは、とか考えたり。お客さんの人数によっては、ある程度、さっと出さなきゃいけないものがありますよね。前は、15名などのご予約にも対応していたのですが、そうすると、私たちが思うようなものが出せないんですよ。もう、そういうのはやめようと、笑。せいぜい、5人までと、笑。団体様は6人ギリギリでやってます、笑」

 

―今後の目標はありますか。―

今成さん「そうですね。、この忙しさを自分が耐えられなくなってきたときは、羽生の作家さん、染色や、陶芸の人たちのための常設展示場としてつかっていくというのもありなのかなと思っています。活用できたらいいと思っています。将来的には、もう一つ、文庫蔵があるのですが、そちらも活用できたらいいと思っています。みんなもいいアイディアがあれば教えてくださいね、笑」

―十分素敵なアイディアですよ!笑―

 

後記
取材後、お庭も見せていただきました。大きな楠の木の香りや、実いっぱいの柿の木など、自然を感じられる空間で、ご自宅もあり、カフェの中だけでなく外まで地続きに環境のあり方を感じました。
北大路魯山人は、自著の中で「美の源泉は自然であり、美味の源泉もまた自然にある。」と書いています。まさにそんな言葉がしっくりとくるような樋ノ上カフェ。食事、外観、おもてなし等を含め、豊かな生活の延長線上で営まれており、心もお腹も大満足でした。みなさんもぜひ一度、ご賞味ください。

 

【樋ノ上カフェ】営業日等はお店のホームページをご参照ください。

http://www.kuracafe-hinoe.com/_/Home.html

 

埼玉県羽生市下川崎1267
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